ECサイト売却の相場と流れをわかりやすく解説!

ECサイト売却の相場と流れ

ご自身で育ててきたECサイトの売却を考え始めた時、期待と同時にたくさんの不安が出てきますよね。

例えば、自分のECサイトの売却相場が一体いくらくらいになるのか、価値算定はどうやるんだろうとか。特にプラットフォームごとの違い、例えばAmazonアカウント売却の特殊性や、Shopifyの売却は簡単にできるのか、といった疑問もあるかもしれません。

それに、お金のことも重要ですよね。個人事業主のまま売却した場合の税金はどうなるのか、それとも法人化して株式譲渡という形をとるべきなのか。M&Aの仲介業者に頼むと手数料はどれくらいかかるのか、手続きや全体の流れも知っておきたい…と、考えることは山積みかなと思います。

この記事では、ECサイト売却を検討し始めた方に向けて、そうした基本的な疑問や、よくある失敗・トラブルを避けるためのポイントを、幅広く解説していきます。

  • ECサイト売却の相場と価値の決まり方
  • AmazonやShopifyなどプラットフォーム別の違い
  • 個人事業主と法人化での税金の違い
  • 売却の具体的な流れと失敗しないための注意点

ecサイト 売却の相場と価値

ECサイトの売却を考えたとき、真っ先に気になるのは「いくらで売れるの?」という点ですよね。ここでは、売却相場の考え方から、プラットフォームごとの特殊な事情、M&Aの手数料、そして個人事業主の場合の税金という、お金にまつわる重要なポイントを見ていきましょう。

ecサイトの売却相場はいくら?

ECサイトの売却相場には、大きく分けて2つの計算の仕方があると言われていますね。

ひとつは、「年間売上の0.5〜1.5倍」という目安です。特に自社で商品を開発しているD2C(Direct to Consumer)のようなサイトの場合、この基準が使われることがあるみたいです。

もうひとつは、中小企業のM&Aでよく使われる「年買法(ねんかいほう)」という方式です。これは、サイトが持つ純粋な資産(在庫や現金など)に、将来稼ぐ力(=のれん、営業権)を足して計算する方法です。

のれん(営業権)とは?

一般的に「営業利益の1年分〜5年分」くらいが目安とされています。サイトの安定性や将来性が高いほど、この「年数」が長くなり、高く評価される傾向にありますね。

ただ、ECサイトって、在庫をあまり持たない「アセットライト」なビジネスも多いですし、成長のために利益を広告費にどんどん再投資していて、帳簿上の「営業利益」が少なくなりがちです。

もし「年買法」だけで計算すると、サイトが持つブランド力や顧客基盤が正しく評価されず、すごく安く見積もられてしまう可能性もあるんですね。だから実務では、この2つの方式をうまく組み合わせて、交渉のベースになる価格を決めていくことが多いようです。

価値算定の2つの方式

先ほどの2つの方式を、もう少しだけ詳しく見てみますね。

方式1:売上基準(マーケットアプローチ)

これは、「年間売上 × 0.5〜1.5倍」という、比較的シンプルな計算です。成長中のECサイトやD2Cブランドで、まだ利益は小さいけれど売上が急拡大している、という場合に使いやすい評価方法かなと思います。

方式2:年買法(インカムアプローチ+コストアプローチ)

計算式は、「企業価値 = 時価純資産 + のれん(営業利益 × 1〜5年分)」となります。

「時価純資産」は、今ある資産(商品在庫、売掛金、現金など)から、負債(買掛金、借入金など)を引いたものです。在庫を抱えるタイプのECサイトだと、この部分が重要になりますね。

「のれん」は、「営業利益 × 1〜5年分」で計算されますが、この「1〜5年」という倍率は、事業の「質」で決まります。買い手は、「このサイトは将来も安定して稼げるか?」を厳しくチェックします。

「のれん」の倍率を高める重要指標(KPI)

買い手がチェックするのは、以下のような点です。こうした数字が良いほど、「将来性・安定性が高い」と判断され、営業利益の「5年分」といった高い評価につながりやすくなります。

  • LTV(顧客生涯価値): 高いほど、既存客が将来も利益を生むと評価されます。
  • オーガニック流入比率: 広告に頼らず自然検索で集客できていると、安定性が高いとみなされます。
  • CVR(購入率): サイトの「稼ぐ力」が強い証拠になります。
  • リピート率: ファンがついている証拠であり、安定収益の源です。

Amazonアカウント売却の注意点

ECサイト売却の中でも、特に注意が必要なのがAmazonです。

結論から言うと、Amazonのセラーアカウント自体を、他人に譲渡することは規約で原則禁止されています。

Amazonのシステムでは、アカウントは特定の「法的主体(Legal Entity)」と強く紐付いていて、これを変更できない仕組みになっているんですね。

「じゃあ、Amazonビジネスは売却できないの?」と思うかもしれませんが、現実的な方法がひとつだけあります。それは、「株式譲渡」という方法です。

Amazonビジネス売却の唯一の方法:株式譲渡

もしあなたのAmazonアカウントが「法人(会社)」に紐付いている場合、その「会社(法人)の株式」を丸ごと売却(株式譲渡)するのです。

この方法なら、Amazonアカウントに登録されている「法的主体」は変わらない(会社のオーナーが変わるだけ)ので、規約に抵触しません。これまでの販売実績やレビューをすべて引き継いだまま売却できる、唯一の現実的な方法と言われています。

逆に言うと、もし「個人事業主」としてAmazonを運営している場合、レビューや実績を維持したまま売却することは絶望的です。

将来的にAmazonビジネスを高値で売却したいと考えているなら、売却の1〜2年前から計画的に「法人成り」して、アカウント名義を個人から新設した法人に変更しておく準備が必須、ということになりますね。

Shopifyの売却は可能か

Amazonとは対照的に、Shopify(ショッピファイ)は売却がしやすいプラットフォームです。

Shopifyは、ストア(アカウント)の売却・譲渡を認めており、システム上にも「所有権の移管」という機能が標準で備わっています。

管理画面から、新しいオーナーのメールアドレスを入力するだけで、比較的簡単にストアの所有権を移すことができるんですね。この手軽さから、Shopifyのサイトは個人間での売買(事業譲渡)も活発に行われている印象です。

他にも、BASE(ベイス)やMakeShop(メイクショップ)なども、アカウントの譲渡や契約譲渡に対応しているようです。

M&A仲介と手数料の相場

ECサイトを売却するとなると、買い手をどうやって探すか、という問題が出てきます。主な相談先は「M&A仲介会社」と「M&Aマッチングサイト」の2種類かなと思います。

M&A仲介会社

専門のアドバイザーがついて、買い手探しから交渉、契約書の作成サポートまで、全部手伝ってくれるサービスです。安心感は高いですが、その分、手数料も高めになることが多いですね。

手数料は「レーマン方式」という成功報酬体系が一般的です。これは、取引金額に応じて手数料率が変わる仕組みです。

取引金額手数料率(一般的な例)
5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超〜50億円以下の部分3%
(※上記はあくまで一例です)

会社によっては、成功報酬とは別に、最初に「着手金」(数十万〜数百万円)が必要な場合もあります。

M&Aマッチングサイト

売り手と買い手がオンライン上で直接マッチングできるプラットフォームです。数万円〜数千万円規模の「スモールM&A」と呼ばれる案件が多く、個人事業主の方でも利用しやすいのが特徴ですね。

手数料は仲介会社に比べて安価な傾向があります。例えば、ラッコM&Aは売主の手数料が無料だったり、サイトキャッチャーは売主・買主双方が成約額の3%(最低55,000円)だったりします(※2024年時点の情報です)。

手数料の体系は、仲介会社やプラットフォームによって本当に様々です。ここで紹介したのはあくまで一般的な目安なので、実際に相談する際は、必ず契約前に料金体系をしっかり確認してくださいね。

個人事業主の税金と注意点

ECサイト売却で、おそらく一番重要かつ複雑なのが「税金」の話です。

特に個人事業主の方が売却した場合、その売却益が「事業所得」になるのか「譲渡所得」になるのかで、手取り額が劇的に変わってしまいます。

課税区分1:事業所得(または雑所得)

本業として(事業的な規模で)継続的に運営してきたECサイトを売却した場合、こちらの区分になる可能性が高いです。

この場合、給与など他の所得と全部合算して税金を計算する「総合課税」になります。税率は所得が多いほど上がる「累進課税」で、住民税と合わせて最大で約55%にも達します。

課税区分2:譲渡所得

副業として運営していたサイトや、単発での売却と税務署に認められた場合です。

もしサイトの保有期間が5年を超えている「長期譲渡」になれば、税率は住民税と合わせて約20%(分離課税)ですみます。

どちらになるかは「税務署の判断」

問題は、この「事業所得」と「譲渡所得」の線引きが法律で明確に決まっておらず、最終的には税務署の「実質判断」に委ねられるという点です。

一般的に、そのECサイト運営で生計を立てている(=本業である)と認められる場合は、「事業所得」として最大55%の累進課税が適用される可能性が極めて高いと考えられます。

税金の話は本当に複雑で、個々の状況によって最適解が異なります。売却を具体的に進める前に、必ずM&Aに詳しい税理士さんに相談してください。

ecサイト 売却の全プロセス

相場や税金といったお金の話の次は、実際に売却を決めてから完了するまでの「流れ」について見ていきましょう。具体的にどんなステップがあり、どんな手続きが必要なのか、そして税金対策として重要な「法人化」についても解説します。最後に、よくある失敗例も紹介しますね。

売却の流れと8ステップ

ECサイトの売却(M&A)は、準備から完了まで、一般的に以下のようなステップで進んでいきます。結構やることがありますよね。

  1. 売却の目的と相場の確認「なぜ売るのか」「いくらで売りたいか」を明確にします。
  2. 専門家への相談M&A仲介会社やマッチングサイトに相談します。
  3. M&A相手先(買い手)の選定候補先を探し、交渉相手を絞り込みます。
  4. 秘密保持契約(NDA)の締結詳細な情報を開示する前に、情報漏洩を防ぐ契約を結びます。
  5. トップ面談・条件交渉経営者同士で面談し、大枠の条件を話し合います。
  6. 基本合意書(LOI)の締結ここまでの合意内容を書面にし、買い手に「独占交渉権」を与えることが多いです。
  7. デューデリジェンス(DD:買収監査)買い手側が専門家(会計士や弁護士)を入れ、売り手(自社)の情報を徹底的に調査します。M&A最大の山場ですね。
  8. 最終譲渡契約書(DA)の締結・クロージングすべての条件に合意したら最終契約を結び、代金の支払いと資産の引き継ぎ(クロージング)を行います。

手続きと譲渡資産リスト

売却準備の中でも、特に重要で、かつ面倒な作業が「譲渡資産リスト」の作成です。

これは、「ECサイト運営に必要な資産のうち、何を買い手に引き継ぎ、何を引き継がないのか」を明確にするリストです。これが曖昧だと、「SNSアカウントも引き継がれるはずだった」「顧客リストは含まれていないと聞いていた」といった、深刻なトラブルの原因になります。

リストアップすべき資産の例

  • ドメイン、サーバー(データやプログラム含む)
  • サイトコンテンツ、デザインデータ
  • ECシステムのライセンス、利用ツールのアカウント
  • 顧客リスト、会員データ
  • メールマガジン購読者リスト
  • 取引先(仕入れ先、外注先)との契約
  • SNSアカウント(Instagram, X, Facebookなど)
  • 広告アカウント(Google, Metaなど)
  • 商品在庫(ある場合)

【最重要】顧客リストと個人情報保護法

譲渡資産リストの中でも、特に「顧客リスト(会員データ)」の引き継ぎは細心の注意が必要です。

これは「個人情報」の第三者提供にあたるため、個人情報保護法の規制対象となります。サイト売却(事業譲渡)に伴って個人データが買い手に渡ることについて、会員への事前周知や同意取得の方法をどうするか、必ず弁護士などの専門家と確認しながら慎重に進める必要があります。

法人化と株式譲渡の税金

「個人事業主の税金」のセクションで、本業として売却すると税率が最大約55%になるリスクがある、という話をしました。

では、どうすれば手取り額を最大化できるのか?

そのための最も有力な戦略が、「①売却前に法人成り(法人化)し、②その法人の株式を売却する(株式譲渡)」というスキームです。

なぜなら、個人が「会社の株式」を売却して得た利益(譲渡益)は、「株式の譲渡所得」という区分になるからです。そして、この「株式の譲渡所得」にかかる税率は、所得金額にかかわらず一律約20.315%(申告分離課税)と決められています。

Amazonや楽天のビジネスを売却する場合は、規約上この「株式譲渡」が必須の方法でしたが、Shopifyなど事業譲渡が可能なサイトであっても、税金面だけを考えると、このスキームが最も有利になる可能性が高いんですね。

【比較】個人オーナーの売却スキームと税率(目安)

どちらが有利かは一目瞭然かなと思います。

売却スキーム主な対象プラットフォーム
個人事業主のまま「事業譲渡」Shopify, BASE, 自社開発サイトなど最大約55%(総合課税)
法人化して「株式譲渡」Amazon, 楽天(必須) / Shopifyなども可一律約20%(分離課税)

もちろん、法人化するには手間もコストもかかりますし、事業を個人から法人に移管する際にも税務上の論点があったりします。この戦略が使えるかどうか、どれくらいメリットがあるかは、必ず税理士さんや公認会計士さんと相談して決めてくださいね。

よくある失敗とトラブル回避

ECサイトの売買では、準備不足によるトラブルが本当に多いようです。売り手側として注意すべき点、そして買い手側が気にする(=DDで厳しく追及される)点をまとめます。

売り手側の失敗例

  • 運営が属人化しすぎていた「オーナー(あなた)しか分からない業務」が多すぎると、買い手は引き継ぎ後に運営を回せません。最悪、売上が激減してトラブルになります。
    → 対策: 日々の運営業務を徹底的にマニュアル化し、「誰でも回せる」状態にしておくことが、高値評価に直結します。
  • サイトの強みを客観的に訴求できない「うちはLTVが高いです」と言っても、それを裏付ける客観的なKPIデータがなければ、買い手は信用してくれません。
    → 対策: 日頃からGoogle AnalyticsやECシステムのデータを管理し、LTV、リピート率、CVR、オーガニック流入比率などを正確に把握しておきましょう。

買い手側の失敗例(=売り手がDDで追及される点)

  • 在庫の不一致DD時の在庫リストと、実際の譲渡日時点の在庫数が合わない、というトラブルです。
    → 対策: 最終契約書で、クロージング(譲渡日)時点での在庫の棚卸方法や評価方法を明確に定めておく必要があります。
  • 想定外の運営コスト・手間引き継ぎ後、申告されていなかったツールの利用料や外注費、想定以上の作業工数が発覚するケースです。
    → 対策: DDの段階で、運営にかかるすべてのコスト(固定費・変動費)と、具体的な作業工数(誰が何時間かけているか)を徹底的にヒアリングされます。隠さず正確に開示しましょう。
  • 譲渡できない資産の存在売買成立後、重要な広告アカウントやSNSアカウントが売り手個人の名義で登録されており、規約上譲渡できないことが発覚するケースです。
    → 対策: 準備段階の「譲渡資産リスト」で、すべてのアカウント・契約の名義を確認し、譲渡不可なものは代替手段(例:権限だけ共有する、など)を事前に買い手と合意しておく必要があります。

ecサイト 売却を成功させる鍵

ここまで色々と見てきましたが、ecサイト 売却を成功させる最大の鍵は、やはり「周到な準備」に尽きるかなと思います。

「すぐにでも売りたい」と焦ってしまうと、運営マニュアルが整備されておらず属人性が高かったり、自社の強みを示すKPIデータが揃っていなかったりします。そうなると、買い手からは「引き継ぎ後のリスクが高い事業だ」と判断され、希望額よりずっと低い金額を提示されてしまうかもしれません。

理想を言えば、売却を考え始めてから1〜2年をかけて準備を進めるのがベストと言われていますね。

ECサイト売却 成功への最終チェックリスト

最後に、後悔のない取引のために実行すべきことをまとめます。

  1. 【目的の明確化】なぜ売るのか? 希望金額は? 従業員の雇用など、価格以外で譲れない条件は何かを決めます。
  2. 【現状の把握】使用プラットフォーム(AmazonかShopifyか等)と運営主体(個人か法人か)を確認し、最適な売却スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)と税金リスクを把握します。
  3. 【企業価値の向上】LTV、リピート率、CVRといったKPIの改善に取り組み、客観的な「事業の質」を高めます。
  4. 【属人性の排除】詳細な運営マニュアルを作成し、オーナー(あなた)がいなくても事業が円滑に回る状態を構築します。これは買い手のリスクを下げ、高値評価に直結します。
  5. 【資産の整理】「譲渡資産リスト」を詳細に作成し、ドメイン、契約、SNS、顧客リストなど、すべてのアカウント名義や譲渡可否を確認しておきます。
  6. 【専門家の確保】M&Aに精通した仲介会社やマッチングサイトを選び、契約や税務のリスクを回避するため、信頼できる弁護士や税理士と早期に連携します。

やることは多くて大変そうに見えますが、一つ一つしっかり準備してクリアしていけば、きっとご自身が納得のいくECサイト売却につながるはずです。