こんにちは、WP M&A運営者です。
サイト売買を進めていくと、必ず「契約書」のステップに突き当たりますよね。特に個人間での取引だと、「簡易的なものでいいかな?」とか「ネットで拾った雛形(テンプレート)を使えば大丈夫そう」なんて思ってしまうかもしれません。
ですが、サイト売買の契約書は、想像以上に複雑で重要な役割を持っています。例えば、サイトの収益性を保証する「表明保証」や、売却後に競合サイトを作らない約束である「競業避止義務」、コンテンツの「著作権」の扱いはどうするか。さらには、取引後のトラブルを防ぐ「契約不適合責任」(これは民法改正で変わった点ですね)や、意外と見落としがちな「税金」の計算、専門家である弁護士や行政書士に依頼すべきかなど、考えるべきことが山積みです。
もしこれらの取り決めが曖昧なまま取引を進めてしまうと、「話が違う!」といった深刻なトラブルに発展しかねません。この記事では、サイト売買の契約書で最低限押さえておくべき重要なポイントや、法的なリスクについて、なるべく分かりやすく解説していこうと思います。
- 契約書がなぜ「絶対に」必要なのか
- 契約不適合責任という最大のリスク
- 雛形利用の危険性と実務上の注意点
- 専門家への依頼費用や税金の目安
サイト売買の契約書が重要な理由
まず、「なぜサイト売買に契約書が必須なのか?」という点から見ていきましょう。特に個人間の取引では軽く見られがちですが、サイト売買は法的には「事業譲渡」にあたることが多く、目に見えない資産(データや権利)の集合体を取引する行為です。だからこそ、書面での定義が不可欠なんですね。
契約不適合責任と民法改正の影響
サイト売買契約における最大のリスクは、この「契約不適合責任」かなと思います。
これは、2020年4月の民法改正で「瑕疵(かし)担保責任」から変更されたものなんですが、意味合いが大きく変わりました。
昔の「瑕疵担保責任」は、買主が知らなかった「隠れた欠陥」について売主が責任を負う、というものでした。でも、新しい「契約不適合責任」は、「隠れているかどうか」に関わらず、「契約書の内容と違うもの」を引き渡したら売主の責任になる、という考え方なんです。
契約不適合の具体例
- 「月間10万円の収益」と契約したのに、実際は5万円だった。
- 「記事は全てオリジナル」と契約したのに、コピペ記事(著作権侵害)があった。
- 「SEOペナルティなし」と契約したのに、手動ペナルティを受けていた。
この改正によって、法的には「買主有利」にシフトしたと言われています。買主は、契約と違う部分があれば「直してください(追完請求)」や「代金を減額してください(代金減額請求)」などを主張しやすくなりました。
だからこそ売主側は、契約書で「どこまで保証し、どこから免責されるのか」を明確に定義する必要があるんですね。逆に買主側は、この権利を守るために「契約書に求める品質を明記する」ことが重要になります。
必須条項:競業避止義務とは?
次に見逃せないのが「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」です。
これは、「サイトを売却した売主が、その後一定期間、売ったサイトと競合するような類似サイトを運営してはいけませんよ」という取り決めです。
買主からすれば、せっかくサイトを買ったのに、直後に売主が同じノウハウでそっくりなサイトを立ち上げて競合になったら、たまったものじゃないですよね。
注意点:取引の形式による違い
サイト売買が法的に「事業譲渡」とみなされる場合、会社法に基づいて原則20年間(!)の競業避止義務が発生することがあります。でも、「資産譲渡」という形式だと、この義務は自動的には発生しません。
どちらの形式であれ、トラブルを防ぐために、契約書で「期間(例:2年間)」「地理的範囲(例:日本国内)」「禁止する事業内容」を具体的に合意しておくことが必須です。
著作権と著作者人格権の不行使特約
サイト(特にブログメディア)の資産価値の核は、言うまでもなく記事や画像といった「コンテンツ」です。当然、これらの「著作権(財産権)」は買主に譲渡されることを明記します。
ですが、ここで法律的な落とし穴があります。それが「著作者人格権」です。
著作者人格権とは、コンテンツを作った人(著作者)だけが持つ固有の権利で、これは法律上、他人に譲渡することができません。この権利の中には「自分の作ったコンテンツを勝手に改変されない権利(同一性保持権)」が含まれています。
どういうことかと言うと…。
最悪のシナリオ
買主がサイト買収後、記事をリライトしたり、広告を追加(改変)したりした際、売主(または元の執筆者)が「著作者人格権の侵害だ!」と主張すると、買主はサイトの運営(改変)が一切できなくなるリスクがあるんです。
この壊滅的なリスクを防ぐため、契約書には「売主は、買主に対して著作者人格権を行使しません」という「不行使特約」を挿入することが絶対不可欠です。これは本当に重要なポイントですね。
譲渡対象資産の範囲を明確にする
「何を売買するのか」を明確に定義する条項です。これが曖昧だと、「これも含まれると思った」「それは渡す約束じゃない」というトラブルの元になります。
最低限、以下のものはリストアップすべきかなと思います。
- ドメイン(URL)
- サイトを構成するプログラム、データ、ID/パスワード類
- コンテンツ(記事、画像、動画など)の著作権
- 関連するSNSアカウント(X, Instagramなど)
- 顧客リストやメルマガ読者リスト(※個人情報保護法に注意!)
- 運営マニュアルなど
逆に、「譲渡対象に含まないもの」(例えば、共用サーバーのアカウントや、売主が使う別サイトのツールなど)も明記しておくと、より安全ですね。
表明保証で収益の正確性を担保
「表明保証(ひょうめいほしょう)」は、特に買主にとって非常に重要な条項です。
これは、「売主が買主に対し、サイトに関する特定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する」ものです。
買主は、売主から開示された情報(特に収益やPV)を信じて、高額な代金を支払うわけです。もしその情報が嘘だったら、買収の前提が崩れてしまいますよね。
売主が保証すべきこと(例)
- 開示した収益データ(ASP収益、AdSense収益など)やPV数が正確であること。
- コンテンツが第三者の著作権などを侵害していないこと。
- GoogleなどからSEOペナルティを受けていないこと。
もし売主が保証した内容が嘘(違反)だった場合、買主は契約不適合責任や損害賠償を追及する根拠とすることができます。デューデリジェンス(買収前調査)で全てを見抜くのは難しいため、この表明保証でリスクに備えるわけです。
サイト売買の契約書作成と実務
契約書の重要性がわかったところで、次は作成プロセスや費用といった実務的な側面を見ていきましょう。「雛形じゃダメなの?」「費用はいくら?」といった疑問は、私も最初に感じたことですね。
雛形テンプレート利用の危険性
まず、インターネットで無料配布されている「サイト売買 契約書 雛形」や「テンプレート」の利用についてです。
結論から言うと、無料の雛形をそのまま使うのは、非常に危険だと私は思います。理由は主に3つあります。
- 情報が古い(法改正未対応)先ほど解説した「契約不適合責任」は2020年の民法改正によるものですが、ネット上の古い雛形はいまだに「瑕疵担保責任」のままになっていることが多いです。これでは現在の法律に即したリスク管理ができません。
- 重要条項が抜けているサイト売買特有の最重要条項、例えば「著作者人格権の不行使特約」や、詳細な「表明保証」の内容が、無料の雛形ではごっそり抜け落ちているケースがほとんどです。
- どちらの立場にも最適化されていない雛形はあくまで一般論です。売主としてリスクを限定したいのか、買主として手厚く保証してほしいのか、取引の実態に合わせてカスタマイズしないと、自分に一方的に不利な契約になってしまう可能性があります。
専門家費用を節約したつもりが、後で何倍もの損害を被る可能性がある、というのが私の見解ですね。
個人間の取引における注意点
仲介業者を通さず、SNSや知人の紹介などで個人間の取引を行う場合、特に契約書が重要になります。
当事者同士の「言った」「言わない」のトラブルが最も発生しやすいためです。仲介がいない分、契約書の作成から資産の引渡しまで、すべて自分たちで管理しなければなりません。
また、エスクローサービス(代金預かりサービス)の利用も検討したいところです。これは、買主が支払った代金を第三者(仲介業者や弁護士など)が一時的に預かり、サイトの引渡しが完了したことを確認してから売主に支払う仕組みです。「代金を支払ったのにサイトが引き渡されない」あるいは「サイトを渡したのに代金が支払われない」といった最大のリスクを防ぐことができます。
収入印紙と電子契約での節約法
サイト売買の契約書(事業譲渡契約書)を「紙」で作成した場合、契約金額に応じて「収入印紙」を貼る必要があります。これは印紙税という税金ですね。
例えば、取引額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合、20,000円の印紙が必要です。これは地味に大きなコストですよね。
ですが、この印紙税、「電子契約」で行うと合法的に0円(不課税)になります。
印紙税法は、物理的な「紙の文書」の作成を課税対象としています。そのため、PDFなどの電子データに電子署名をして取り交わす電子契約は、課税対象外となる、というのが国税庁の見解です。
注意点
紙で署名・捺印した契約書を「スキャンしてPDF化」しただけではダメです。元の紙に納税義務が発生しています。あくまで、契約プロセス全体が電子的に完結している必要があります。
最近はサイト売買プラットフォームが電子契約サービスと連携していることも多く、コスト削減と迅速化のために非常に有効な手段ですね。
税金(消費税)の確認ポイント
契約書作成と並行して、税金の確認も必須です。特に「消費税」の扱いは、契約書の金額欄に直結します。
原則として、日本国内での事業の譲渡は消費税の課税対象です。
- 売主が「課税事業者」の場合(通常、基準期間の売上1,000万円超)→ 売買代金に対して10%の消費税が発生します。
- 売主が「免税事業者」の場合(個人事業主や小規模法人など)→ 消費税は課税されません。
買主にとって、例えば500万円の取引が「税込500万円」なのか「税抜500万円(=支払総額550万円)」なのかは、予算上、天と地ほどの差があります。
契約書の売買代金条項には、「消費税込み(税込)」なのか「消費税別(税抜)」なのかを絶対に明記してください。
また、売却益にかかる所得税や法人税(譲渡所得、事業所得など)も非常に複雑です。税金については、必ず事前に税理士に相談することをお勧めします。
弁護士や行政書士の費用相場
では、契約書の作成やレビューを専門家に依頼すると、いくらかかるのでしょうか?
まず、依頼先として「弁護士」と「行政書士」が考えられます。
- 行政書士:契約書の「作成」が主な業務です。予防法務が中心ですね。
- 弁護士:契約書作成に加え、相手方との「交渉代理」や、万が一の「紛争対応(訴訟)」まで依頼できます。
費用については、取引額や契約書の複雑さによって本当にピンキリです。あくまで一般的な目安ですが…。
スポットでの契約書作成・レビュー依頼の場合、日本弁護士連合会(日弁連)のアンケート事例などを見ると、5万円〜20万円前後が一つの目安になるかもしれません。ただ、ITやM&A専門の法律事務所だと、事業譲渡契約書の作成は「30万円〜」といった料金設定(取引額に応じた算定)になっていることも多い印象です。
費用はあくまで目安です
ここで挙げた金額は、あくまで一般的な相場観の一例です。実際の費用は、依頼する事務所や取引の規模によって大きく異なります。必ず事前に見積もりを取り、サービス範囲を確認してください。
月額数万円の「顧問契約」を結んでいる場合は、その範囲内で対応してもらえるケースもあるようですね。
デューデリジェンスの進め方
契約書を固める前に、買主が必ず行うべきことが「デューデリジェンス(DD)」、つまり買収前調査です。
契約書の「表明保証」条項は、あくまでDDで発見できなかったリスクに備えるためのものです。DD自体を疎かにしてはいけません。
具体的には、売主から開示されたデータが本物かを確認します。
- 収益データ:ASPの管理画面やAdSenseのレポート画面を、可能であれば画面共有などで「生データ」として見せてもらう。
- アクセスデータ:Google Analyticsなどの実画面に閲覧権限をもらい、PV数、流入経路、ユーザー属性などを直接確認する。
- 運営体制:外注ライターとの契約内容や、記事作成のレギュレーションなどを確認する。
このDDの結果を踏まえて、「表明保証してもらう内容」や「最終的な売買価格」を交渉し、契約書に落とし込んでいく、という流れが理想的ですね。
サイト売買の契約書は専門家へ
ここまでサイト売買の契約書について解説してきましたが、正直なところ、かなり専門的で複雑ですよね。
私自身もサイトM&Aに関わる中で痛感していますが、契約書は「取引の価値」そのものを守る保険証書のようなものです。
数万円の専門家費用を節約するために無料の雛形を使った結果、後から「契約不適合責任」や「著作者人格権」の問題で、売買代金をはるかに超える損害を被るリスクがあります。
特に高額な取引になるほど、弁護士費用は「コスト」ではなく、将来の事業価値を守るための「投資」だと考えるべきかなと思います。
専門家選びのポイント
依頼する際は、単に弁護士や行政書士というだけでなく、「サイト売買」「M&A」「IT・ウェブ法務」の取り扱い経験が豊富な専門家を選ぶことが非常に重要です。
この記事で挙げたようなリスク(契約不適合、著作者人格権、競業避止義務など)をしっかり理解し、取引の実態に合わせた契約書を作成・レビューしてくれる専門家に、ぜひ相談してみてください。
免責事項
本記事の内容は、WP M&A運営者の経験や調査に基づいた情報提供を目的としており、法的な助言を構成するものではありません。契約書の作成やレビュー、税務処理などの具体的な判断については、必ず弁護士や税理士などの資格を有する専門家にご相談ください。
